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「ディーベクトって、苦手なものあるの?」
そう聞いたのはアースティンだった。場所は新羅製作所内グリモア博士の研究室。机の上には資料が積み重ねられ、それに頭を突っ込むようにして、この部屋の主がなにやら万年筆で書きなぐっている。
グリモアは寝不足気味の赤い眼をこすって、のろのろと顔をあげた。
「もしかして、それを聞くためだけに、学会間近の僕のもとに来たのかね?」
「だけ、じゃないよ。差し入れ付き」
見れば、スーツとサングラスの男が持つにはにつかわしくないバスケットを掲げている。
「ディーベクトから?」
「うん、今日で絶食何日目?」
「あー・・・・二日と十二時間四十五分」
ちなみに部屋に時計はなかった。
グリモアは万年筆をペン立てにつきたてて、乱れた髪をかきむしった。
「コーヒーだけで人間は生きられるのか、とか実験でもしてるの?」
アースティンはグリモアの机のわきのごみ箱に積まれたコーヒーの空き缶を見た。
「クラッカーくらいは食べてるよ。三か月前のとかだけど」
「あんたがネズミを捕食できる人間だってこと、忘れてた」
こう見えても、グリモアはフィールドワークが新年の、超アウトドア型サイエンティストである。いつぞやはジャングルでいつぞやは谷底で、半年以上を過ごしたそうだから。筋金どころか鉄柱いりだ。
とりあえずシャワーくらいは浴びてこい、とグリモアを部屋から追いやり、待つことしばし。黒いスラックスとシャツを着込んだ男が髪をふきながら入ってきたとき、アースティンは思わずヴィンセント君と言いそうになった。しかし本人は、その後ろに続くようにして入ってきた。
「ヴィンセントに着替えを借りたよ。しかし、なんだね、マントがないと落ち着かないねぇ」
「なんなら一緒にクリーニングに出してやろうか?」
「いいや、結構。さぁ、ご飯にしよう。きっと君の好きなホットサンドだよ」
食後のコーヒー(缶)をすすっていると、グリモアはとつぜん口を開いた。
「で、さっきの話だけれど。ディーベクトの苦手なものねぇ」
ヴィンセントがぴくりと眉をあげた。
「なんでそんなことを?」
「それは僕も聞きたいな」
ヴァレンタイン親子に見つめられ、アースティンは肩をすくめた。
「さっきディーベクトに呼び出されてさ。具合が悪くなったから、かわりにもっていけって」
「あれが、具合がわるい?」
「でしょ、おかしいでしょ?聞いてみれば、グリモア博士の部屋は苦手なんだって。でも前は普通にはいっていたしさ・・・・・どうしたの?」
ヴァレンタイン親子は、そろって渋い顔になった。あまりに表情が似ているので、アースティンは一瞬区別がつかなくなったくらいだ。
「もう、駆除したのに」
「消毒してこなかった親父が悪いんだろ」
「だって、検疫なんかにかかったら、その時採取したサンプルがさ・・・・」
アースティンは恨みがましそうな目で、二人を見た。グリモアは悪戯を叱られる子供のような顔で、説明した。
「結構前なんだけどさ。ジャングルで欲しかったサンプルを採取して、それを木箱に入れてこの部屋に持ち込んだんだけど・・・・その箱の中にさ、雌の”アレ”がいたんだよ」
「あれ?」
「楕円でひらべったくって、茶色っぽい、触覚のある」
「それって、ゴキ・・・・」
「その単語をディーベクトの前で言うときは、覚悟をきめたほうがいいね」
アースティンはなんとも形容しがたい表情になった。
「ダメなの?」
「あの日、中で増殖していることを知らなかった僕らは、それを開けてしまったんだ」
そこら辺で、とグリモアは床を指さした。
「運よく、僕もヴィンセントも平気で。二人して殺虫剤を借りてきて撃退していたんだけど。そこにさ、来ちゃったんだよ。ディーベクトが」
「私は初めてあいつが卒倒したのを見たぞ」
「百キロ以上ある大男を医務室まで運ぶのは、骨が折れたね。しかも起きてから滔々と説教食らった」
アースティンは想像力の限界が超えて、こめかみをもんだ。おい、それでいいのか最強の男。
黙っていると、ヴァレンタインズの話はさらに発展し始めた。
「他の虫は平気なくせして、なんでダメなのかねぇ。あれは確かに生命力に溢れたイメージがあるけれど、ファイア使わなくたって死ぬのに」
「マルザラはアイシクルエリア出身だろう?昔、アレをカブトムシと間違えて、ディーベクトに見せたときは、本人ごとサンダー落としてたぞ」
「あはは、彼じゃなかったら死んでたね」
仲睦まじく、思い出話にふける赤目の親子からわずかに距離を取って。アースティンは少しだけ故郷を懐かしく思った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・◎
ディーベクトはたぶん生理的にダメ。
私もアレは苦手です。
以下拍手お返事!
一月三十日:瑠璃さんへ
北海道にはいないんですか!私もほとんど見たことはないんですが、一度ちっちゃいのがぺったんこになっているのを見つけた時には、さすがにチキンになりました。
ディーベクトがアレを嫌いなのは上の通りです。台所に立つことが多い人ですから、たぶん不潔の代名詞として天敵というイメージがあるんでしょう。
拍手ありがとうございました!
そう聞いたのはアースティンだった。場所は新羅製作所内グリモア博士の研究室。机の上には資料が積み重ねられ、それに頭を突っ込むようにして、この部屋の主がなにやら万年筆で書きなぐっている。
グリモアは寝不足気味の赤い眼をこすって、のろのろと顔をあげた。
「もしかして、それを聞くためだけに、学会間近の僕のもとに来たのかね?」
「だけ、じゃないよ。差し入れ付き」
見れば、スーツとサングラスの男が持つにはにつかわしくないバスケットを掲げている。
「ディーベクトから?」
「うん、今日で絶食何日目?」
「あー・・・・二日と十二時間四十五分」
ちなみに部屋に時計はなかった。
グリモアは万年筆をペン立てにつきたてて、乱れた髪をかきむしった。
「コーヒーだけで人間は生きられるのか、とか実験でもしてるの?」
アースティンはグリモアの机のわきのごみ箱に積まれたコーヒーの空き缶を見た。
「クラッカーくらいは食べてるよ。三か月前のとかだけど」
「あんたがネズミを捕食できる人間だってこと、忘れてた」
こう見えても、グリモアはフィールドワークが新年の、超アウトドア型サイエンティストである。いつぞやはジャングルでいつぞやは谷底で、半年以上を過ごしたそうだから。筋金どころか鉄柱いりだ。
とりあえずシャワーくらいは浴びてこい、とグリモアを部屋から追いやり、待つことしばし。黒いスラックスとシャツを着込んだ男が髪をふきながら入ってきたとき、アースティンは思わずヴィンセント君と言いそうになった。しかし本人は、その後ろに続くようにして入ってきた。
「ヴィンセントに着替えを借りたよ。しかし、なんだね、マントがないと落ち着かないねぇ」
「なんなら一緒にクリーニングに出してやろうか?」
「いいや、結構。さぁ、ご飯にしよう。きっと君の好きなホットサンドだよ」
食後のコーヒー(缶)をすすっていると、グリモアはとつぜん口を開いた。
「で、さっきの話だけれど。ディーベクトの苦手なものねぇ」
ヴィンセントがぴくりと眉をあげた。
「なんでそんなことを?」
「それは僕も聞きたいな」
ヴァレンタイン親子に見つめられ、アースティンは肩をすくめた。
「さっきディーベクトに呼び出されてさ。具合が悪くなったから、かわりにもっていけって」
「あれが、具合がわるい?」
「でしょ、おかしいでしょ?聞いてみれば、グリモア博士の部屋は苦手なんだって。でも前は普通にはいっていたしさ・・・・・どうしたの?」
ヴァレンタイン親子は、そろって渋い顔になった。あまりに表情が似ているので、アースティンは一瞬区別がつかなくなったくらいだ。
「もう、駆除したのに」
「消毒してこなかった親父が悪いんだろ」
「だって、検疫なんかにかかったら、その時採取したサンプルがさ・・・・」
アースティンは恨みがましそうな目で、二人を見た。グリモアは悪戯を叱られる子供のような顔で、説明した。
「結構前なんだけどさ。ジャングルで欲しかったサンプルを採取して、それを木箱に入れてこの部屋に持ち込んだんだけど・・・・その箱の中にさ、雌の”アレ”がいたんだよ」
「あれ?」
「楕円でひらべったくって、茶色っぽい、触覚のある」
「それって、ゴキ・・・・」
「その単語をディーベクトの前で言うときは、覚悟をきめたほうがいいね」
アースティンはなんとも形容しがたい表情になった。
「ダメなの?」
「あの日、中で増殖していることを知らなかった僕らは、それを開けてしまったんだ」
そこら辺で、とグリモアは床を指さした。
「運よく、僕もヴィンセントも平気で。二人して殺虫剤を借りてきて撃退していたんだけど。そこにさ、来ちゃったんだよ。ディーベクトが」
「私は初めてあいつが卒倒したのを見たぞ」
「百キロ以上ある大男を医務室まで運ぶのは、骨が折れたね。しかも起きてから滔々と説教食らった」
アースティンは想像力の限界が超えて、こめかみをもんだ。おい、それでいいのか最強の男。
黙っていると、ヴァレンタインズの話はさらに発展し始めた。
「他の虫は平気なくせして、なんでダメなのかねぇ。あれは確かに生命力に溢れたイメージがあるけれど、ファイア使わなくたって死ぬのに」
「マルザラはアイシクルエリア出身だろう?昔、アレをカブトムシと間違えて、ディーベクトに見せたときは、本人ごとサンダー落としてたぞ」
「あはは、彼じゃなかったら死んでたね」
仲睦まじく、思い出話にふける赤目の親子からわずかに距離を取って。アースティンは少しだけ故郷を懐かしく思った。
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ディーベクトはたぶん生理的にダメ。
私もアレは苦手です。
以下拍手お返事!
一月三十日:瑠璃さんへ
北海道にはいないんですか!私もほとんど見たことはないんですが、一度ちっちゃいのがぺったんこになっているのを見つけた時には、さすがにチキンになりました。
ディーベクトがアレを嫌いなのは上の通りです。台所に立つことが多い人ですから、たぶん不潔の代名詞として天敵というイメージがあるんでしょう。
拍手ありがとうございました!
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